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消えてゆく人々

「もしもし?コンピュータールームを開けて欲しいんですけど…」いつも通り、昨夜、オフィスの電話で警備係に電話をした。コンピューターの部屋は、今まで何回か窃盗があったので、常にカギがかかっている。授業中、コンピューターを使って学生にちょっと自習をさせるので、私は毎回こうして電話をかけなくてはならない。が、通常、向こうは学校の名前で出るのに、今回は個人名で答えたのが少しひっかかった。そしてやはり鍵を開けにきた警備係のおじさんは、いつもと違う人だった。ドアを開けてもらい、「サンキュー」と礼を言うと彼が一瞬じっと私を見た。「ロバート、知ってるだろ?」「は?」「いつも帽子をかぶってる小柄な警備係だ。」「ああ!」いつものあのおじさんのことか。名前は知らなかった。「それが何か?」「彼、亡くなったんだよ。」「ええっ?」「心臓発作でね…59歳だった…」呆気にとられている私をそのままに、彼は「じゃあ…」と去っていった。

ロバートさん、というのか…今頃になって私は彼の名を知った。もう一人の警備員だと電話して十分、二十分、ひどいと全く来ず、「あのぅ、さっきお願いしたんですが」とまたかけ直ししたりしていたのだが、ロバートさんになってからは必ず1、2分で来て開けてくれた。私はひそかにもう一人の怠慢なおじさんが戻って来なければいいな、と思っていた。ドアを開けてもらって礼を言う、ただそれだけのおつきあい。最後に開けてもらったのは先々週だっただろうか。人の命とはあっけないものだ。結婚していたのだろうか。子供は?…そんなことまで気になり出した。

そういえば、先月、豪州の携帯電話ビジネスで億万長者となったトルコ出身のビジネスマンも42歳だったと思うが心臓発作で急逝した。日課としていた朝の散歩中だったそうだ。みんな、長寿を前提に何歳までに家を建てるとか部長になるとか人生計画を立てるのだろうが、本当はなんにも保証がない。億万長者でも一介の警備員でも全く無差別に、消える時は消えてしまう。人生って何なんだろうと思ってしまう。私はもう一度ロバートさんにサンキューと言いたかった。

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