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平(たいら)和(かず)

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知らなかった日本

ビギナークラスでは、「旅館」「日本料理」「花見」または観光地のビデオ等を見せ、なるべく日本に興味を持ってもらうように努めているが、常にきれいな日本、楽しい日本だけを紹介していてはいけないとも思っている。ある程度時間が経つと、社会問題に関するビデオも見せてみる。しかし、授業終了前に見せるのがいけないのか、終わってから「質問は?」「見てどう思った?」などと聞いても、ろくな返事がないまま皆そそくさと帰宅してしまうことが多く、内心がっかりしていた。

が、昨日のクラスは反応が違った。「受験地獄」や、「引きこもり」、「学級崩壊」についてのビデオに皆釘付けになり、ビデオが終わった時はもう授業終了数分前だったにもかかわらず、討論が始まった。「子供が夜中まで勉強させられるなんてひどい!」「勉強が苦手なら、どうして他の自分の好きなことを見つけないんだ?例えば、オーストラリアならサーフィンする子が多いよ!」「別に有名企業に入らなくたっていいんじゃないの?ごみ収集の仕事だってなんだっていいじゃないか」「香港でも毎日、子供が自殺してるよ。日本だけじゃないよ。」「オーストラリアだっていじめはあるけどね」「ゆとり教育はいいと思うけど、でもやっぱりオーストラリアでも学力低下はあると思うよ。自分の子供の頃に比べて…」「先生もあんなふうに塾に行ったんですか?」…国籍も世代もまちまちなクラスで様々な意見が交わされた。既に帰宅時間だということに気がついてもいないようなその白熱ぶりに、私は嬉しくなった。

受験地獄はともかく、引きこもりや学級崩壊は、私が住んでいた頃の日本にはまだ存在しなかった。その意味ではこのビデオは私にとっても、「知らなかった日本」なのだ。生徒と同様、多くの疑問がわいた。どうして日本の子供達は、こんなに視野が狭くなってしまうのだろう。世間体か?プレッシャーか?なぜ、「日本の常識」は世界で通用しないんじゃないか、と考えられないのだろう? 外国に行って「東大卒です」と言っても、賞賛を受けることは少ないと思う。世界はもっともっと広い所なのだ。

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Aさんの思い出

トシのせいか、昔教えた生徒のことをよく思い出す。最近なぜかAさんのことをよく想う。彼は自宅でしていたグループレッスンがどんどん減っていって、最後に残った一人だった。去年だったか、久々に連絡しようとしたのだが、電話番号が変わってしまっていた。車のセールスマン(日本のM社)で、あまり語学の才能はなかった。プライベートのレッスン中も熟睡していることが度々あった(苦笑)。が、日本をこよなく愛していた。娘二人も日本語を習ったことがあり、下の娘には私も教えた。Aさんは語学はダメだったが、なぜか日本語の「時刻表」を日本人以上に使いこなす技術を身につけていた。日本に行く前には「時刻表」ですべて計画してから発つのである。そして、日本語では発揮できない驚くような記憶力を持っていた。例えば、私がオーストラリアでの有名な橋について聞くと、次から次へと詳細な説明付きで名前を挙げることができた。彼を見ていると、一概に頭がいい、悪い、と決めつけることが間違いであるように思われた。

もう一つ、Aさんには驚かされたことがある。もう何年も教えた後で、こんな「告白」があったからだ。「昔は日本人なんて大嫌いだった。」…「えーっ?!?!?」と驚く私に彼は言った。「オヤジが戦争行ったからね。日本人なんて、だいっきらいだと思ってた。でも、娘が日本語を習って、ホームステイなんかすることになった。嫌だったね。でも、仕方ないから、行ったよ、日本に。娘に会いにさ。そしたら、ホントに驚いたよ。あの歓迎ぶり。あんな親切を受けたのって初めてだったな。」そこでAさんの日本への思い込みは180度回転したらしい。日本人の友達ができた。日本語を習い出した。その後も何度も日本に行った。日本からも友達が来た。

ガイジンが家に泊まりに来た場合、大歓迎するのは日本では一般的な風潮だろう。最高のおもてなしをし、何もかもおごるのが、当たり前かもしれない。が、それがAさんには信じられない親切だった。ジャパンは彼の一番好きな国になったのだ。

私は貧乏の為、九年間帰国できなかったことがあった。が、九年ぶりに帰国した時に、カンタス航空で、「二階」に連れていかれ、ゆったりとした座席でワイン一本を無料で進呈され、素晴しい時を過ごした。オーストラリアに戻ってきた時、Aさんが「どうだった?」と言うので「行きの飛行機で、すごいサービスを受けたよ。」と報告したら、「それはよかった。従弟がカンタスに勤めてるんだよ。センセイが九年ぶりに里帰りするからって、ビジネスクラスにしてくれるよう頼んでおいたんだ。」と言われた。

Aさんはもうけっこうなトシのはずだが、元気だろうか。出来の悪い子供ほど可愛いというが、出来の悪い生徒ほど思い出深かったりする。

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