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著書「日本語教師の卵に贈る 海外での日本語の教え方 裏ワザ集」(電子本-でじたる書房で発売中!
これから海外で教える方必読!E-bookなのでダウンロードしてすぐに読めます!


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平(たいら)和(かず)

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遠慮の美

オーストラリアにしばらく住んでから一時帰国した時、我が家唯一の「外国人」の友人が家に遊びに来た。台湾から来た姉妹でうちの父の知り合い ー その頃三十代だったと思う。お姉さんは台湾に住んでいながらも日本語が流暢で、妹のほうは日本に住んでいるのになぜかそれほどうまくない。彼女が言いたいことはなかなかうちの両親には通じなかったのだが私はけっこう当てることが得意だった。

とにかく、その日私はある逆カルチャーショックを味わった。というのは母が飲み物をすすめた時に彼女らは「いいえ、どうぞもうおかまいなく。」と「遠慮」したのだ。その時私は殆どショックと言っていいような感情を体験した。「遠慮」ってこんなに美しいものだったんだ。建前でしらじらしい会話をするのは苦手な私、なんでもイエス、ノーで正直に応える英語圏のコミュニケーション法のほうが好きだと思っていた。オースラリアの、遠慮はほぼ皆無の環境で何年か過ごしていたのだが、そのせいか台湾姉妹の遠慮にはなんだか東洋の美を感じてしまった。ちょっとしたクッションがあるやりとりって柔らかで素敵なのだ。

数年後、妹のほうが四十そこそこで他界したことを知った。今でも彼女の想い出はあの「遠慮」する姿なのである。

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買い物に見る異文化

オーストラリアのスーパーではレジに並ぶ時、お客さん自らが品物を買い物かごから出してベルト・コンベヤーに乗せるのが普通。日本ではこれはしなくていいのだが、帰国するとつい癖で出しそうになってしまう。

又、ハンドバッグ以外に袋などを持っている場合はレジで「点検」してもらうために差し出さなくてはいけない。まあしなくても何も言われないことのほうが多いのだが、この間さぼっていたら「見せて下さい」と言われてしまった。そう言われるとやはり「私、万引きするように見えます?」とつっかかりたくなり、いい気はしないものだ。まあどこの店でも万引きによる損害が大きいのでチェックが厳しいのは仕方がないのだろうが…。

その点、日本は甘い。実家の近くのスーパーなどはレジを出たのと逆方向に裏口がある為、支払いを済ませてから又店内を通って裏から出て行くお客さんが多い。つまりその気があればいくらでももっと袋に入れてから出ていくことができる。こんな時日本はまだ平和な国だなあ、と思ってしまう。

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C君その後

自閉症のC君、幸いもう授業中に特にびっくりするような騒音を出すことはなく、「苦情おじさん」も黙ったまんまだ。しかし誰も彼の隣に座らないので「ペアワーク」の時に私が相手にならなくてはいけない。つまり私はあんまり他の学生を監視したりサポートしたりできなくなる。ここで「C君の相手は私がやりましょう!」とボランティアが出てこないのはちょっとがっかりしてしまう。みんな冷たいの?それともただ恥ずかしいだけ?いくら自閉症でもC君、孤独は感じるのではなかろうか。しかしおかげでC君はいつも先生を一人占めにできるのだからまあいいか。

ただし韓国人のA君は仕事の都合でいつも一時間は遅刻してくる。彼が到着すると空いている席はC君の隣なのだ。A君は何も疑うこともなくそこに座りC君のパートナーになってくれる。ありがとう、A君、全部の事情がわかっているわけでないにしても…と心の中で私は礼を述べる。

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変な日本語 その2

先日「シーチキン」の話をしたが、もう一つ、日本に住んでいた学生が不思議がるのが「ペットボトル」。これは誰でも犬、猫の「ペット」を想像してしまうのでは?スペリングだって同じだし…。ペットを入れておく瓶?まさかね。何の略なのかと調べてみると、略されても仕方がないような長ったらしい言葉だ。ポリエチレン・テレフタレート樹脂。英語だと"polyethylene terephthalate resin"。でもこの頭をとるとPTRなのだが…。不思議、ふしぎ…。

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K君のリクエスト

新しいクラスにいるK君。ブロンドヘアーの、サーフィンでもしそうないかにもオーストラリア人っ!という容貌。授業中もクラスメートと何やら面白いことを言ってはケタケタ笑っている。このタイプ、最初だけ面白半分で来てすぐやめてしまうのでは?と思ったのだが、第3週の今はまだ来ている。とにかくこういうひょうきんものが一人でもいてくれるとクラスの雰囲気は明るくなる。昨日も白板に書いたひらがなを指差してクラスに読ませる時にK君を起用すると「はいよっ!」という感じで楽しくやってくれた。ただ「携帯禁止」の標識があるのに授業中に一度彼の携帯が鳴っていたのが気になった。

授業が終わると彼が私の机まで来た。「質問」ってガラでもない。なんだろう? 「せんせっ!ちょっと頼み事があるんだけどぉ…。」「なに?」「これから日本の友達に電話するから話してくれない?」「ええっ?なんで私が?」「さっきさ、彼女から電話来たんだけど授業中だから話せない、って言って切っちゃったんだ。でも、彼女あんまり英語わからないから怒ってるかもしんない。」"She"という言葉を使うから、付き合っている彼女という意味なのか、単なる友達なのかはわからない。でもここまで心配するのはかなり気がある、とみた。私が返事をする暇もなくもう電話をかけている。出たのはお母さんのようだ。仕方なく事情を話し丁重に伝言を頼む。切るとK君「わーい!よかった!せんせ、アリガトゴザイマース!」まったくぅ。「前はさ、お父さんが出たんだよ。だから、ハーイ!サトーシ!ハウアユー!って言ったんだ。そしたら後で彼女に怒られた。自分の父親を呼び捨てにしたのはオレが初めてなんだって。けけけ!」なんだか先が思いやられる超能天気のK君である。

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Choose your life

二日間ブログをさぼってしまった。朝6時半に家を出て夜9時半に帰ってくるとさすがにもうコンピューターに向かう気力なし…。「書かなきゃ」とは思うのだが…。しかし自己啓発の本で読んだのだが、"should" "must"というコトバは使わないほうがいいのだそうだ。その代わりに"I choose to ~" と言いかえる。「〜しなきゃいけない」じゃなくて「〜することを選ぶ」。「〜しなきゃ」と勝手に思い込み、自分をストレスに陥れていることは多いと思う。人生、本当に「どうしても〜しなきゃいけない」ということは少ないはず。学校出たら就職しなきゃ、とか○○才だから結婚しなきゃ、とか、考えてみるとすべて世の中が勝手に作った"should" と  "must"である。だから私も疲れてたら「書かないことを選びます。」「かわりに休養することを選びます。」「今日は短いブログにすることを選びます。」(笑)

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なぜ広告をやめたのか

昔は日本語教授の広告を新聞や電話帳に出したりしていたのだが、最近はもうしないことにしている。幸いここ数年は広告なしでもなんとかやっていけるくらいの仕事が入ってくるということもあるが、もう一つ理由がある。それは、けっこうおかしな問い合わせが多いからなのだ。

まず、個人レッスンの広告を出すと必ずちょっといやらしい電話がかかってきた。最初からいやらしい事を言ってくれればこちらもさっさと切ることが出来るのだが、あちらもけっこう知能犯(?)で、まずは「テキストは何を使うんですか。」とかそれらしい質問をしてくることが多い。それで真面目に答えているとしばらくして「結婚してるんですか。」などと「え?それ、どういう関係があるの?」という方向に進む。そのうちもっとえげつないことを言い出すのだ。しかも驚くことにこのような変態電話が朝八時頃からかかってくる。朝八時!あなた、一体何考えてるのと思ってしまう。

それから一度町の薬屋さんから電話がかかってきたことがある。「今、日本人のお客さんが来てるんだけど、一体何が買いたいのかわからないので聞いてみてくれ」という内容。仕方なく引き受けると日本人男性が出る。「どういう薬をお探しなんでしょうか。」と聞くと一瞬戸惑ってから恥ずかしそうに「う、うん、実はね、あの〜、アレをさ、大きくする薬。それが欲しいんだよ。」聞いてこちらも絶句。かろうじて「わかりました」と一言。薬屋に伝えるとさすがに呆れていた。

もう一度はなんと地元の警察署から。何事かと思うと「今ここにいる日本人に尋問したいのだが、彼は英語が全くわからない。ここに来て頂きたい。」という。え〜っ、今?いくら警察だってこちらにも都合というものがある。しかもなんだか私が飛んで行って当たり前のような言い方が気に食わなかったのでどうしても都合がつかないと言って行かなかった。

このような理由でもう広告は出さないことにしたのである。

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海のトリ

段々忙しくなってきた。一日中教えて、もひとつプライベートレッスンをしていたら眠くて眠くて、もう瞼がおりてしまいそうで困った。友達でやはり日本語教師のYさん、本当に教えながら眠ってしまったことがあるそうだ。プライベートレッスンだったとは言え顔から火が出る思いだったそう。

というわけで今日は一つだけ、よく学生に聞かれる言葉をご紹介しよう。それは「シーチキン」。これ、日本に住んでいた学生は必ず疑問に思ったようだ。海のチキンってなんだろう?と。確かに変なネーミングだ。しかし考えてみるとイルカが「海豚」、フグが「河豚」、っていうのもかなり変。イルカって豚に似てる?

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to do a Bradbury

2002年のソルトレークシティー冬季五輪のスピードスケードで一躍有名になったオーストラリアのSteven Bradbury。そのわけは単に金メダルを獲得したからではなく、ほとんどビリだったのに、最後の最後で先を行っていた他のスケーターが皆転倒し、彼だけが転ばずに完走(完滑?)したからである。昨日インタビューされているのを見たが、勝利の瞬間も果たして「ここで腕を上げて嬉しそうな顔をしていいのか」戸惑ったのだそうだ。この驚異的な勝利および幸運は、"to do a Bradbury" という新フレーズになり、「意外な勝者」を表す言葉としてしばらくオーストラリアで使われていたらしい。強豪相手でも戦ってみる、他人より劣っていても最後までやってみることの価値の教訓的なものがこのフレーズの陰に隠れているようだ。日本ではここのところ「負け犬」という言葉が使われているそうだが負け犬が思わぬ大勝利で「最後に笑う」ことだってあるのだ。

写真

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再会

昨日ず〜っと昔に教えたSさんという女性に再会した。そのいきさつがちょっと面白かった。私が推薦状を書いて日本で英語を教える仕事を得た学生が、日本から、翻訳の話があるとメールしてきたのだ。私は翻訳は全く興味がないので断ろうとしたが、ふと昔教えたSさんを思い出したのだ。彼女とは何年も会っていなかったが、翻訳を中心に自宅でビジネスをしていることは知っていた。電話帳にも必ず語学学校の欄に出ていたので、毎年「ああ、まだやってるんだ。」と思っていた。

この翻訳の仕事、彼女なら適役ではないか、と思い切ってメールを出してみた。五日ほど経って(ここがオーストラリア?)返事を貰った。メールにはその仕事に関心があると書いてあり、久しぶりに会うことになったのだ。「和さん?」近寄ってきた彼女は飾り気ない感じで昔と全く変わっておらず、気さくな笑顔が懐かしかった。幸い会った喫茶店はガラガラで、静かな空間でゆっくりと話すことが出来た。息子さん達がもう大学生であること(私が教えていた頃はちびっ子だった)、息子と日本へ行ったこと、ずっと翻訳や日本人ビジネスマンへの英会話教授などを続けてきたことなどすべて日本語で話してくれた。前から上手な人だったが一段と自然な話し方を身につけているような気がした。そしてプレゼントに自分で書き出版したという絵本を二冊くれた。バイリンガルの絵本で、話はオーストラリア色の濃いものだ。彼女がストーリーを書き、日本人の友達が翻訳を手伝い、もう一人が絵を描いたのだそうだ。こんな才能もある人だったのか。しかしこのような本を売るのはなかなか難しいということだった。豪州に住んでいる駐在員の子供や、日本で英語を習っている子供なら喜んで読みそうに思えるのだが…。

二時間ほど話して私は仕事に、彼女はジムに、と別れた。来週からニュージーランドにハイキングに行くから体を鍛えておくのだそうだ。秋には、高校で一緒にフランス語を習っていた友達と「約束通り」五十歳記念にフランスに旅行するのだという。落ち着いて、じっくりと焦ることなく進んでいく彼女を見ていて見習いたい気持ちになった私だった。



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2006年は何の年?

ゆうべテレビを見ていたら変なコマーシャルがあった。豪州内陸の砂漠地帯、いわゆる「アウトバック」にカウボーイのような格好の若いオーストラリア人男性が登場。もう一人のオヤジから箸と茶碗が飛んでくる。オヤジは典型的なオーストラリアのバーベキューでソーセージなどを焼き、それをプロのシェフ並みにもの凄い勢いで切り刻み、肉が宙を飛んでさきほどの茶碗におさまる。これはこちらの、日本料理で鉄板焼をやる店で見る芸当である。客の茶碗やあるいは口に食べ物を投げるシェフの驚異のエンターテインメントは日本の伝統だと思われているようだが、私は日本では見たことがない。聞いたところによると発祥はハワイなのだそうだ。

とにかく一体何のコマーシャルなの?と思ったら日豪交流年の宣伝だった。今年色々な催しが企画されているようだ。私もここで宣伝しておこうか。

http://www.yoe.australia.or.jp/events/


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希望が持てた夜

今日仕事に行く前に、学校のカウンセラーから電話を貰った。例の自閉症のC君の件。「彼の場合ははっきりどうして欲しいのかを伝えないと理解できません。だから『私が話している時は絶対喋らないで聞きなさい』ときっぱり言ったほうがいいです。」というアドバイスだった。そうか、つまり日本式の「あの〜、私が説明している時にはね、どっちかというと静かにしてもらえるとね、他のクラスメートも助かるんじゃないかなあ、なんて思うんだけどね…。」といった遠回しなメッセージは駄目だということか。学校に着くと幸い教室の入り口あたりでC君がウロウロしていた。今なら他の学生もいない。このチャンスを逃すまいと思い切って実行。「C君!あのね、授業中、私が話してたらおしゃべりしないで。いい?」「う、うん…」はっきりしない返事だが、まあ言うことは言ったんだから様子を見るしかない。

クラスが始まるとC君について苦情をいってきたおじさんが又やってきた。なぜまだC君がいるんだという文句だろうかとドキッとしたらなんと別の文句だった。もお〜。

授業中、観察しているとC君は前回のような興奮した感じはなかった。私もインターネットで彼の症状についてちょっと調べてみたのだが、「何でも先に予告しておくと安心して行動する。急な変更などは苦手。」ということだった。だから何も予期できなかった初回はあんなにうるさかったのかもしれない。結局三時間の授業で特に困るほどの騒音は一度もなかった。たまにちょっと変な発言はしたが独り言は言っていなかったので安心した。この調子なら大丈夫かも…。授業後皆が帰った後、C君がまだ帰り支度をしていたので「C君、今日は協力してくれてありがとね。ほんとに助かったわ。」と感謝の言葉をかけたが、全く目を合わさないしどんな表情なのかもわからない。なんだかモゴモゴつぶやいているだけだった。

PS
今日のC君のノートのイラスト。人が窓を指差して「これはいくらですか。」と言っている。その下にカタカナで「ウィンドーショッピング」と書いてあった。

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新しいクラス、第一週目でピンチ!

今年のクラスが始まった。毎年第一週目はなんだか気持ちが落ち着かない。まずは「クラスがあるか?」という心配だけれど、あることが決まったら今度は「どんな生徒が来るんだろう?」ということでソワソワする。クラスメイト間での相性、日本語力の差、または去年のように極端に静かなクラスと極端にうるさいクラス、など色々と心配のタネはある。

一つのクラスではもうある生徒から苦情が来た。クラスメートのC君がうるさい、と言うのである。C君は一目見て普通でないことがわかった。シャツ、ズボン、靴とすべて原色の組み合わせ。眼鏡をかけバンダナのようなものをしているが、人と視線を合わせない。授業中に彼の携帯が鳴った時はぎゃあっ!と叫んでもの凄い勢いで走って教室を出て行き、生徒全員が顔を見合わせた。他にも私が説明している時に大きな声で独り言を言う。

仕方なく休み時間中、廊下に呼び出して聞いてみた。「C君、あのぅ、あなた大きな声で独り言言ってるんだけど、それ、自分でわかってますか。」すると彼「ボク、子供の時から自閉症なんです。今は薬も飲んでない…。」「そう。じゃ、私に何かできることがありますか。」「う〜ん…」「声が大きくなったら合図を送るとか…。」「それは効果ないと思う…。」授業中はなんだか異次元にいて話しようがないような雰囲気だったが、一対一で話してみると彼も真摯に応対してくれているようだ。ノートを見せてもらうとけっこう綺麗な字で漢字が並んでいる。「花血」と題したイラストには花から沢山血が吹き出している。ブラックユーモアだなあ。

他の生徒とペアワークさせてもちゃんとタスクはこなしていた。何より日本語が好きなのは見ていてわかる。いくら苦情が来ていても彼を追い出すのは気が引けた。彼は彼なりに努力をしているではないか。身体障害なら皆寛容なのに、精神障害だとどうしてそんなに冷たいんだろう。上司に報告すると「それはやはり差別になるから彼を拒否することはできない」という返事だった。苦情を言って来た生徒は実は去年も、精神異常でなくただお喋りなクラスメートについて苦情を言ってきたヒトである。なんとか彼を説得せねば…。第一週めで既にチャレンジは始まった。

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翻訳ツールで笑おう

まだ学期が始まったばかりで宿題や試験の採点までには時間があるが、去年同僚と集まった際「最近はインターネットの翻訳ツールも段々正確になってきてるみたいだから学生の作文採点時などには要注意だ」ということを小耳に挟んだ。そこで今日はちょっとお手並み拝見しようといくつか試してみた。

実は先日こちらの新聞にも翻訳ツールについて関連記事があったのだがそこには「なるべく短い文で俗語類は入れないほうが正確な答えが戻ってくる」とあったのでまず"How exciting!"という短文にしてみると答えは「いかに刺激する」…。試しにもう一つ別のツールでやってみたが今度は「刺激するどのように」…。例文が悪かったのかもしれない、と文を変えて"when are you coming"とタイプ。答え「来ているある時」。 あ、もしかして”?”をつけたほうがいいのかな?文頭も大文字にしてみるとやっと「いつ来ているか」とまあまあの文に。

ウェブサイトをまるごと訳すというツールもあったのでオーストラリアのYahooを日本語にして貰ったところ…

トップニュースの部分
「オーストラリアの上のスパイはイラク人のムギの賄賂のスキャンダル言われた政府についての暗闇に反動の知識を否定し続けたのであった。多くを読みなさい。」だって!

とにかく命令文があちこちに見られる。
天候
「あなたの状態を選びなさい。」
私の状態?それがどう天候と関係あるの?
英語のページに戻ると"Choose your state (州を選んでください)”だった。
そうか、"State"は「状態」でもあり得る。

雑誌名のリスト欄がおかしい。

「新しい考え」("New Idea")
「よりよい家および庭」("Better Homes and Gardens")
「人の健康」("Men's Health")
「テレビは当たる」("TV Hits")
「総女の子」("Total Girl")
「爆発しなさい」("Explode")

広告もなんだか…

「信じがたい価格のiPod Nanos 速いがありなさい」

とにかく命令されっぱなしだ。まあそれでも大体の意味が汲み取れるなら使えるだろうが、この程度の翻訳なら万一学生が写して提出しても見え見えだろうし、語学教師業もしばらくはロボットに取られることはなかろう、と変な安心感に浸った。

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外国人による日本語小説




デビット・ゾペティの文章に初めて触れたのは、国際交流基金が配布している「日本語教育通信」というニュースレターだった。「日本語は官能的」と題したその文。

***

…外国語を学ぶ際に大事なのは、まさにそういう特徴といかに<接する>か、という<心構え>だと思う。日本語固有の文字表記、言い回し、微妙なニュアンスなどを至難の課題と思うか、逆に<遊び心>でそれに取り組めるか、がポイントだろう。

 日本語はこういう<遊び心>をそそられる面をたくさん持っている気がする。欧米の諸言語の習得に<頭脳的努力>が求められているのに対して、日本語はとても<官能的>な言葉だ。人間の<感覚器官>、分かりやすく言えば、人間の<五感>に直接訴える要素が多いからだ。…

***

へええ、ガイジンでここまで書けるのか、とひっくり返った。今まで流暢に日本語を話すガイジンには何人も会ったが、書かせてみると会話力とは全く比例しないのが常だ。そして同時に生粋の日本人である自分のお粗末な文章力を恥じた。

日本から取り寄せて彼の小説「いちげんさん」を読んでみた。インターネットの感想を見ると両極端だ。(まだ読んでいない方の為にあえて自分の感想は伏せておこう。)

1962年、スイス生まれ。この小説で第二十回すばる文学賞を受賞している。

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オー!Panko!?

先日二泊三日で旅行をした。なかなかスケジュールが合わない夫と私がたまたま三日間ブランクが重なったからである。即、プライベートレッスンをキャンセル。(ごめん。…理由も旅行とは言わなかった。ごめん。)とにかく、ワインで有名なその地に着いた。今日は料理もしなくていいではないか!と浮き浮きレストランに向かう。メニューを広げるとおいしそうな料理名が色々と綴られている。シーフード、食べたいな、とエビ料理の説明を読むと、「Prawn のなんとかかんとか with Panko 」と書いてある。Panko? パンコってもしかして「パン粉」? とにかく頼んでみるとやはり「海老フライ」のような料理だった。しかしこのネーミング、なんか笑っちゃうなあ。99.9999%のお客さんは「Prawn with Panko...オー、パンコ?何かわからんけどきっと凄くおいしい調味料かなんかだろう。」と思って頼んでしまうのではなかろうか。ただのBreadcrumb、そう、オーストラリア中のどこのスーパーだっていくらでも売ってるあのパン粉だとは知らずに。

なぜ外国語のネーミングというのはこうもエキゾチックに響き、商品価値を上げてしまうのだろう。日本などはその、利益の為の外国語輸入では最先端をいっている国に違いない。「なんとかアラモード」とかよく意味はわからないけどなんとなくよさそう、お洒落そう、で使っていることが実に多い。が、何語から来ているのか知らずにいると困ることもあるようだ。例えばある日本人が「アンケート」は英語だと思っていた為に、外国人と英語で話しているときも「アンケート」と言って全く理解して貰えなかったのだという。英語では"questionnaire"と言うのが普通で、"enquete"などとフランス語で言われてもわかるわけがない。きっとその人は「アーンケイートォ」とか「ァンケーーィト」とか色々な発音で試したに違いないと思うと笑ってしまう。さあ、今夜はパンーコォで何か作ろうか。

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外国語を学ぶ人々

昨日は入学手続きを手伝いに行った。これは日本語だけでなく語学部全体のものなので、日本語以外のコースに申し込む人達にも関わった。一見楽な仕事のようだがカルチャーショックとも呼べるような経験が幾つもあった。まず、「語学をしたいけれど何語がいいのかわからない」まま申し込みに来る人。テーブルまで来てから相談しだす。「何語がいいと思います?」「そ、そうですねぇ…。どんな国に興味があるんですか。」「うーん。簡単なのは何かな。」「外国語はそれなりに皆難しいと思いますけどね…。」こういう人はもしかしたら「実は授業時間以外にも勉強しなくてはいけない」ことを知って早々にドロップアウトするかもしれない。ここまでではなくても「フランス語か中国語か迷っている」とどういう理由か全く違うコトバを選択肢にする人もいる。

親が子供のかわりに申し込みに来ることもある。私の前に座ってから携帯を取り出し娘に電話をかける。「じゃ、ほんとにやるのね、日本語?いいの?いいのね?勉強するよね?約束?」なぜ家で相談してから来なかったのだろう。後ろに行列ができていたりするとこちらがハラハラする。

一人、ベビーカーを押してきたアジア人女性はたまたま居合わせた黒人の女性の目にとまった。「可愛いわね。ヨシヨシ…。」(抱きかかえる)「初めてのお子さん?」「そうです。もう大変で…」「大変?一人で?何言ってるの。私なんか十人よ。」「えっ!十人!すごーい。」「だから一人、二人で大変だなんて言う人を見ると笑っちゃうわ。」…ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。別にそれはかまわないんですけどね、あの〜、私のテーブルの前じゃなくてむこうでお喋りしてもらえません?放っておいたらあと一、二時間はそこにいそうな勢いだ。

その次、ブロンドでセレブっぽいサングラスをかけたスタイルのいい女性が入ってくる。まだ若い。「私、スペイン語に入りたいの。」「あ、スペイン語〜?申し訳ないんだけどスペイン語はもう一杯になっちゃったの。ウェイティングリストに名前を書いてくれますか。」「えっ!そんな!だめだめ!私絶対スペイン語勉強しなきゃいけないんだからっ!」「ええ、でも一杯だから…申し込んでおいて来ない人とかよくいるから、まだチャンスはあります。」「でももうウェイティングリストに8人もいるじゃないの。無理よっ!何よっ!わざわざ来たのにっ!」すごい剣幕で名前も書かずに帰っていってしまった。スペイン人のボーイフレンドでも出来たのだろうか。とにかくあの手の人間は生徒になっても又問題を起こし続けるかもしれないから入らなくてラッキーかも…。

というわけでなんだかんだとけっこうストレスの多い一日であった。いまだに驚くことの尽きないオーストラリアである。



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Helloとこんにちは

ついつい机の前に座りっぱなしになる毎日。できるだけ散歩に出かけるようにしているのだが、早朝と日没時は涼しいので散歩もラッシュアワーになることが多く、他のウォーカーと顔を合わせることは避けられない。すれ違う時は大抵無言なのだが、先日女性二人組(プラス犬一匹)に「ハロー!」と言われて気持ちがよかった。特にその言い方が明るくて、大きい声でフレンドリーな調子だったから嬉しくなってしまった。が、昔、私がこちらに着いたばかりの頃は散歩に出るともっと頻繁に知らない人に「ハロー!」と言われたように記憶している。

最近特にオーストラリアの人々の「常識」の変化を感じさせられるのは車を運転している時。道を譲って貰ったらちょっと手を振って「サンキューサイン」を送るべきなのに、それをしないドライバーが急増している。前は9割はしてくれたものだが、今は4割くらいに感じる。そうなるとこちらも「どうせ無視されるなら入れてやらない」という気持になりそうになる。こうやって不親切の輪が広がっていくのは恐ろしい。

さて、散歩の話に戻って、日本では見ず知らずの他人に挨拶をすることはあまりないように思う。ただし登山をする時は誰にでも「こんにちは」と挨拶する。ちょっと興味が湧いてインターネットで調べてみたら面白い発見があった。やはり最近挨拶をしない人が多い、という不満の声があちこちで見られたのだ。「こんにちは」と言うと変な目で見られ、全く返事がないという。が、中には中高生の団体とすれ違ったりすると挨拶し続けるのは大変すぎるから言わない、とか、又は挨拶で口を開いていると歩くペースが乱れてしまう、といった理由を挙げている人もいた。日本人が唯一他人に挨拶する機会も消えていってしまうのだろうか。ちょっと寂しい気がした。

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常に上をめざせ

数年前担当したクラスはチームワークが抜群で、教えていて非常に楽しいクラスだった。通常年末の打ち上げはレストランで行うのだが、そのクラスでは生徒の一人が自宅を提供してくれ、皆が料理を持ち寄って和気あいあいのパーティーとなった。

夜も更けてきたころ、オーストラリア人の生徒Mさんが、身の上話を始めた。しかもパーティーにはあまりふさわしくない話題である。昔、別れたご主人に暴力をふるわれていたというのだ。「あの頃はね、よく家を飛び出して町中をうろうろしたものだわ。行くあてもなくてね。」が、Mさんの語り口がさばさばしていたからか、又は気の合うクラスだったからか、不思議と場がしらけるということはなかった。「そんな男なら別れて大正解だ〜!」などという意見が飛び交っていた。

Mさんは実は有名私立校で日本語を教えている女性だった。常にほがらかで、エネルギーに漲っていて、学期中足を折った時も松葉杖で登校してきたくらいだ。日本語コースが終わったら新しいパートナーとクイーンズランド州に越すのだと言っていた。

数年後Mさんと再会する機会があった。新しい勤め先では英語を教えていて、学部長に昇進、という話も出たと言う。が、彼女は首を横に振り、「私がしたいのはあれ」と「校長室」のドアを指差したのだそうだ。その意志の強さが認められてか彼女は今某高校で校長をしている。Mさんは私に、絶対に自分を見くびるな、そうすれば上昇あるのみだ、ということを教えてくれた忘れられない先生である。

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礼状に見る日本のカルチャー 


(昨日のエントリーに引き続き)これも生徒がくれた本。なんで?と思われるかもしれないが、自分に一冊買ったついでに私にも買ってくれたらしい。手紙文の翻訳を手伝ってふうふう言っているので見るに見かねて、なのかも。

完全に日本語の本だが、英語版が出ていたら面白いだろうなあ、と思う。たとえ目次だけでも英訳があったら、それはさながら日本文化事典のようになるだろう。お中元・お歳暮へのお礼、お土産へのお礼、お餞別へのお礼、入学・進学祝いへのお礼、縁談・結婚のお世話へのお礼、落とし物でお世話になったお礼、在職中のお世話へのお礼…「お礼状」の本だからそれだけで構成されているが、日本でどのような行事が贈り物をする機会であり、又、どんな時にお礼を言わなくてはいけないことを知るだけでも外国の人々は驚くであろう。

日本語の手紙は敬語や時候の挨拶などが多いので日本人もこのような本を見ないとなかなかすらすらと書くことは出来ない。巻頭にやはり例の「尊敬語、謙譲語」の表がついている。「愚息」なんて英訳したらきっとWhy?!?!と聞かれるだろう(笑)ー "Stupid Son" だなんて…。季節のあいさつは豪州から書く場合、困るなあ。今、二月は日本の八月のようなものだから霜柱も紅梅もない。

ところで英語圏でお礼状を書くのはいつだろう。結婚式に来てくれた人に出すサンキューカードを売っているのは見たことがあるし、食事に招待された後などに出す人もいると思う。しかし大抵はその場でサンキューと言って終わりだし、一般的な「サンキューカード」はいくらでも売っているので、既に印刷されているメッセージの下にちょこっとサインして出せばもう上等ではないのか。一度夫が携帯電話を拾って連絡したところ、持ち主のご両親が取りに来て、お礼に、と宝くじを二枚くれたことがある。残念乍ら当たらなかったが、もの凄いお礼になる可能性を秘めているな、と思った。


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English? Yes! Yes!

クリスマス頃からなぜか生徒に随分と日本語の本を貰った。夏休み中にも読みきれなかったくらいだ。自分の趣味に合わないものはどうしても後回しになるのだが、姫野カオルコの「ハルカ・エイティ」はなかなか楽しい本で数日で読み切った。最後のほうに面白い場面があった。

「グランファーザ?ユー アー フジコズ グランファーザ?」
「イエス、イエス」
外国人に英語でなにか言われると反射的にイエスと言うのが多くの日本人である。
「オーッ ナイッミチューッ!」
イエス、イエス、うわーっと叫ぶ左エ門をごつい銀髪の男が抱きしめる。

そう言えばうちの両親がこちらに来た時、居間で父と夫が何やら話し込んでいた。父はある程度英語がわかる、が、聞こえてくるのは「イエス…イエス…」のみ。夫は英語のネイティブスピーカーがよくそうであるように、そのイエスで調子に乗ってどんどん普通のスピードで、間をとることも理解度の確認をすることもなくペラペラ話し続ける。ようやく夫がいなくなった頃、聞いてみた。「お父さん、今の全然わからなかったでしょ?」「うん、わからなかった。でも悪いじゃないか、一生懸命話してるのに…。」




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カタカナ語にご用心!

昨日のエントリーの従兄弟たちの両親も一度オーストラリアに遊びにやって来た。名所ブルーマウンテンに連れて行こうとドライブしていると、窓の外を眺めていた叔父が「えっ!」と絶句している。「な、なんかあんなに大きいのって恥ずかしくて入りづらいよな。」と言うので何事かと見てみると、かなり大きい建物の前面の三分の一くらいを覆った巨大な"MOTEL"という文字が見えた。又もや吹き出す私。「ああ、あれはね、普通のホテルのことだよ、こっちでは。」な〜んだ、そうなのか、と車内は爆笑になった。(日本語のわからない夫だけ「何、何?何がおかしいの?」)

他にもこちらでアイスコーヒーを頼むとクリームソーダみたいにアイスクリームが浮いているものが出てくるし、もとは同じ英語なのに日本とは内容が異なるものは色々あるようだ。又、こちらの人が日本に行くとサンドイッチのパンの耳が切り落とされているのに驚くと言う。どっちもどっちなのかもしれない。


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インスタントで日本語をペラペラ話す(ように見せかける)方法

数年前、従兄弟たちがオーストラリアに休暇でやって来た。空港に迎えに行った時、どうしても今化粧品を買いたいというので付き合った。化粧品店ではオーストラリア人の女性がにこやかに迎えてくれ、英語が全くわからない従妹に向かって説明を始める。私も横で聞いていたのだが、日本語しかわからない従妹にはこう聞こえたはずだ。「ナントカカントカ ペラペラペーラ ナントカカントカ くちべに。ペラペラペーラナントカカントカ くちべに ペラペラペーラ…」私が通訳した上で従妹はめでたく買い物を済ませた。が、店を出た途端彼女が言った一言に私は吹き出してしまった。「和ちゃん、すごいなあ、あの店員さん。日本語が出来たでえ。」ええっ?彼女が使った日本語は「く、ち、べ、に」のみである。それなのになぜか従妹には日本語ぺらぺらに聞こえてしまったようなのである。

日本人は日本語が世界で一番難しい言語だと考えている節があるので、外国人が一言「コンニチハ」とでも言おうものなら「あっら〜!日本語がお上手ですねえええ。」と感心することが多い。そういった反応はまあ初級者には嬉しいものではあろうが上級者にはその褒め言葉を受けること自体がまだ向上の余地がある証拠なのだと解釈する人もいる。

日本語教師もクラス初日はこういった「第一印象」に気をつける必要がある。ちょっと日本に住んでいた人や、アニメファンなどはいやに教科書離れしたナマの表現を知っているので、「うわっ、上手!」という印象を受け、このクラスじゃ簡単過ぎるのでは?と心配してしまうことがある。が、大抵こういう人達は基礎が全く出来ていない。そこで私はよく、「これ、テストじゃないけどちょっと力だめしにやってみて」と文法の基礎の基礎の部分を表にしたものを埋めるタスクをさせる。例えば「です」の過去形は?とか「ます」の否定形は?とかそんなことだ。それをやらせてそっと教室を回ると、さっきあんなにペラペラに聞こえた学生が白紙同然の表を前にウンウン唸っていたりする。 一般の日本人は騙せても日本語教師は騙せないのだよ。

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奇跡の日本語クラス

今まで何度かコースに関して絶体絶命の危機に見舞われたことがある。開講に必要な人数にあと一、二人足りなかった時や、ドロップアウトした学生が多く、コース途中でキャンセルされそうになった時だ。人数が足りなかった時は過去そのコースに参加した学生一人一人に電話をかけ、「もう一度しませんか?」と「勧誘」しなければならなかった。「えーっ?日本語コースぅ?もう随分前のことですよねえ、私が参加したのは。」などと言われると恥ずかしくもあり情けなくもあった。まさに藁にも縋る思い…。しかし不思議なものでこのような万事休す状態に頭を抱えていると常にどこからともなく誰かが颯爽と現れハッピーエンドに導いてくれたのだ。入学手続きの日が過ぎてから急に希望者から電話が鳴ったり、又は突然オフィスに「実はこのコースについて知ったばかりで手続きがまだなんですけど…」と誰かが入って来たり…。

今でも覚えているのは学生数が減ってコースが途中でキャンセルされそうになった時。どうしてもあと三、四人が必要だった。同じレベルで違う曜日のクラスの学生に泣く泣く(?)事情を説明すると幸い数人が動いてくれた。でもまだあと一人、どうしても足りない。が、その日たまたま、ある身障者の学生の付き添いで来ていた女性が「是非入りたい」と言う。「え?でもこのクラス初級ではないから途中で入ってもついてこられないかもしれませんよ。」と正直に言うと「いえ、私、高校で日本語やったことあるんです。」信じがたい幸運にポカンとしていると身障者の学生も「うん、○○さんの日本語、ボクよりうまいよ。」と証明してくれる。彼女が早速その日のうちに支払いを済ませてくれたことでコース継続は確実になった。

が、その日以降彼女は全く顔を見せなかった。身障者の生徒に聞くと「うーん、なんだかおじいさんが亡くなったとかでちょっと色々あるみたい」。そんなわけで結局彼女には二度と会わなかった。一学期分の授業料を払ったというのに…。彼女はきっと通りすがりのエンジェルだったのだ、と私は今も思っている。


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悠々自適スローライフ

もう2006年の十二分の一が終わってしまった。シドニーハーバーでの花火もまるで遠い昔のことのようだ。仕事も少しずつ始まってきている。今又時間に束縛される生活に戻ってみると、「スローライフ」というコトバに魅かれる。昨今よく目にするこの言葉、もともとはイタリアで「Fast Food」 の逆の「Slow Food」というコンセプトができ、そこから「Slow Life」という単語とコンセプトも生まれたらしいのだが、日本語で言うなら悠々自適、我が道を行く、であろうか。夏休みの自由気ままな生活を味わってしまうと、もうファストライフに戻りたくない!という気持ちになってしまう。

そう言えば、こちらで会社勤めをしていた時にジョンさんというおじさんがいた。彼はまあ「何でも屋」とでもいうのか、駐車場の掃き掃除をしたり、机の上に棚を作ったり、いわゆる雑用が彼の仕事だった。しかしいつも礼儀正しく笑顔で挨拶をしてくれ、その温厚な人柄が私は好きだった。ある日たまたま従業員専用の入り口まで一緒に歩いている時、ジョンさんは「僕はね、日本に行ったことがあるよ。」と切り出した。「へえ?休暇か何かで?」「いや、出張だったんだ。」出張?なんで雑用係が出張するの?と内心驚いていると「日本のショッピングセンターを色々と視察したんだよ。前の仕事でそういうことをやっていたのさ。」話を聞くと彼は前の会社では相当高い地位にいた人らしい。ではなぜ今雑用係をやっているのだろう?リストラで首でも切られたのだろうか。が、彼は今の仕事を心から楽しんでいるように見える。「スローライフ」という言葉はさすがに出てこなかったが、聞いてみるとどうやらそれは彼の選択らしかった。ゆっくり自分の好きなことをすることに決めてしまったようなのだ。こちらの新聞で、彼のように「必要最低限の収入以上は稼がない主義」の人がいることを知った。もっとも物価の高い都会にいると「必要最低限」が結構な金額だからあえて田舎に越して実行する人もいるようだ。

もうすぐ今年前半の仕事のスケジュールが決まる。毎年この季節は十分な仕事があるかと気を揉み、貰える仕事は多いほど嬉しいのだが、今年はなぜかどうでもいいように思える。仕事があまりなければ私もスローライフを実行するいい機会になるだろう、などとお金の心配をすっかり忘れて夢見てしまうのだ。


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